2023.04.28

くさかんむり/神戸地域おこし隊

伊藤絵実里さん

神戸市北区を拠点に、茅葺き屋根の修繕から茅葺きを活かした内装や什器づくりなど、さまざまに活動を続ける「くさかんむり」。

昨年からこのくさかんむりに所属しながら、神戸版地域おこし協力隊として「まちづくりコーディネーター」の役割を担っている伊藤絵実里さん。茅葺きを学びつつ、まちづくりの活動も、という任務はなかなかアクロバティックにも感じますが、「思っていた以上に1年目からめっちゃ動いてくれてる」とくさかんむり代表の相良さんも驚くほど。茅葺きと山田町、そんな伊藤さんの目にはどう映っているのでしょう。

―伊藤さんは、もともと山田町のことはご存知でしたか。

私は大学まで千葉を出たことがなかったのですが、大学を休学していた期間にKIITO(デザイン・クリエイティブセンター神戸)でインターンをして、半年間、神戸で暮らしました。といっても街のほうだったので、こちらに里山がこんなにも広がってるというのは、赴任して初めて知りました。

―では、茅葺きのこともこちらに来てから。

そうなんです。私の任務はまちづくりがメインですけど、週に一度はくさかんむりの現場にも出て、簡単な作業を手伝いながら茅葺きのことも勉強しています。ときどき屋根の上にも上がらせてもらったりして。

くさかんむりのロゴ入り作業服。神戸地域おこし隊として役所のネームプレートをぶら下げて現場に行くことも。

―実際に身近に茅葺きに携わることで、茅葺きの印象を新たにしたところもありますか。

本当に当たり前のことですけど、茅葺きって「屋根」なんだなって感じました。文化財やお施主さんの大事な屋根を責任もって作っていくこと。職人さんたちのそのプロ意識はすごく感じています。

まだまだ勉強中ですけど、茅葺き屋根って角(かど)を作るのが難しくて、熟練度によって納まりや見栄えが変わるので、ひとつひとつの作業に責任が伴ってくる。そして同じ地域でも、家が建っている場所によって風向きや日の当たり方も違うので、それに合わせて考えながら作業していきます。ひとつとして同じ屋根はないんですね。

―家の顔でありつつ、雨風を防ぐ役割は絶対におろそかにはできない。まさに現場からの目線ですね。

もうひとつ感想めいたことを付け加えれば、工事現場なのに音がやさしいんです。トントントン、カサカサカサ…ってすごくいい音で。骨組みから丸太や竹で、茅を結ぶのもワラ紐という自然のものなので。これをすべて手作業で、というのもすごいなって。あと、雨の日の翌日に現場へ行けば、茅が濡れて匂いが強くなるのも好きですね。

―茅葺き愛があふれてきました。山田町についてはどんな印象でしょう。

山田町は文化が強くて、歴史が深いと感じます。隣りの淡河と比べても、圧倒的に文化財の数が多いですし、ちょっとした石碑にもストーリーがあったりして。里山という点でも、ほぼ圃場整備が入った周囲の地区と違って、山田町ってほぼ圃場整備がされてないので、小さな段々畑とかもよく残っていますし、生物の多様性もすごく豊かです。

―そんな山田町を中心に、まちづくりの面ではどんな活動をしていますか。

まずは地域に溶けこむのが大事、ということで、とにかく地域の活動にひたすら顔を出しています。福祉センターでおばあちゃん達といっしょにフラダンスをやって、発表会にも一緒に出たり、とか。

―いきなり「まちづくりが」という話をしても通じないですもんね。

はい。そうやっていろんな人に出会うなかで、こういうことをやりたいという声が出たものをイベントとして企画してきました。夏は、北鈴蘭台の北山公園で、山田町の里山でとれたザリガニやカメなどを持ちこんで自然体験をしてもらったり、秋には山田町にある3つの茅葺きの文化財、箱木千年家、無動寺、六條八幡宮を活用した珈琲イベントも開催しました。

―どうして重要文化財で珈琲を?

山田町を盛り上げようという「山田町校下里づくり協議会」の若手組織として「これから部」というのが発足していて、そこに、いずれこの地域で拠点となるカフェを開きたいというご夫婦がいらっしゃったので、そのご夫婦に珈琲を提供いただく形でのイベントになりました。

―なるほど。

冬は、山田町で開催されているイルミネーションイベントにあわせて、茅葺きでツリーをつくって地元の子どもたちと飾りつけをしました。くさかんむりでは小さな「ティピ」づくりのワークショップを時々開いているので、それをアレンジした感じです。

―初年度からいろんなイベント企画を立ち上げてきて、ご自身の役割もより明確になってきましたか。

山田町にかぎらず、地域で文化財を活用したイベントといえば、歴史ウォークのような年齢層の高い参加者の集まる企画が多いという印象があって、もう少し若い層も混じっていけるような工夫ができればと思います。告知チラシひとつとっても、ちゃんとデザイナーに関わってもらったり、SNSでも発信をしたり、そんなことだけでも変わってくるのかなって。

茅葺きによるクリスマスツリー、存在感がある。

―次年度からの伊藤さんの活動も楽しみです。

私がどんどんイベントを開くのでみなさん来てください、というよりも、イベントのお手伝いを募集してみたりだとか、いろんな関わりしろをもっと増やしていきたいと思っています。あとは、街の外に向けたチラシと地元の人に向けたチラシを分けてもいいのかな、とか。

―誰に向けてどう発信するかもとても大事です。くさかんむりの伊藤さんとしてはどうでしょう。

私が入る前からくさかんむりは、いろんな人が茅に関わる機会をつくれたらという思いが強くあって、その部分でもなにかお手伝いできればいいなと思ってます。たとえば、ススキやヨシといった茅がたくさん生えている茅場(かやば)が各地にあり、放置されて荒れた状態になってることも少なくないのですが、そうした場所で茅で小屋をつくるイベントや、ヨシでアート作品をつくるワークショップなども行いました。茅場で活動を起こせば、茅や茅葺きに興味を持ってもらえるだけでなく、その周囲の地域の盛り上がりや、自然保護にもつながりますから。しかも、それって稲わらでもできること。そう考えれば、くさかんむりとして入っていけるフィールドはまだまだありそうです。

大学時代は千葉大学で地域デザインを学んでいたそう。卒論のテーマは郷土玩具。

くさかんむり

https://kusa-kanmuri.jp/