2023.04.10

六甲丹生かぶき/北区農村歌舞伎上演会実行委員会

藤本一美さん

2014年に結成された「六甲丹生かぶき」は、「神戸すずらん歌舞伎」とともに、農村舞台での上演会を中心に活動を続けています。

もともとは、北区役所が主催する歌舞伎教室の卒業生によって「神戸すずらん歌舞伎」が結成され、さらに1998年、北区の神戸市立甲緑小学校の児童たちで始まった「甲緑子たから歌舞伎」。この流れを受け継ぐ形で活動を始めたのだそう。

六甲丹生かぶき 世話役の藤本一美さんに話を聞きました。

―藤本さんと歌舞伎の関わりはいつからでしょうか。

私は子どもが4人いるんですけど、それぞれ甲緑小学校に通って全員が子ども歌舞伎に参加していました。私も最初は歌舞伎のことは何もわからなかったけど、子どもがやってるのを見ていると楽しくて。セリフも何のことやらわからなかったのが、だんだん耳から覚えて、すっかり今では歌舞伎の沼にハマっています。

―子ども歌舞伎出身のメンバーが中心ですか。

いえ、今も残ってるのはうちの子だけ。子ども歌舞伎の卒業生中心にやっていた頃はある程度、お芝居になじんでいるから所作の手直しとかでやっていけたのが、今は新しい人たちと一緒に基本からお稽古をしています。近頃は子どもも大人も忙しくて、残念なことに長く続けてもらうことが難しくなっています。

―いまどきの子どもは忙しい。

そうなんです。習い事やら塾やらでお稽古に参加できなくなっていって…。

六甲丹生かぶきの練習風景。

―そうしたお稽古ごととは違った、歌舞伎ならではの魅力ってどんなところだと考えていますか。

これからの子ども達って大きくなったら、海外に出るのも当たり前でしょうけど、そのときに日本の伝統芸能のことを知っていてほしい。農村歌舞伎を体験していたら、ちょっと見得を切ってみせるとか、そういうこともできるんです。

そして、歌舞伎というのは古い物語だから、今では通用しないような義理や人情、切腹、心中、そんな場面が出てきます。今どきの教科書には決して出てこないような話ですけど、それを自身で役者となって演じて、身をもって体験することは、ただお話を読むのともまた違った経験になるはずです。

―古典芸能鑑賞ともまた違いますよね、自ら演じるというのは。

そうですよ。農村歌舞伎といっても、それぞれで自分の役に責任を負わないといけません。稽古を重ねていても、いざ舞台に立つとセリフが飛ぶこともあります。けど、自分で何とかするしかない。目をシロクロさせて、お客さんからは「ガンバレ~」って声が飛んで、何とか思い出したところで、すごい拍手(笑)。

そうした成功も失敗も体験して、それをなんとか乗り越えていく。その経験ってすごく大事だと思うんです。

昨年の「北区農村歌舞伎上演会」では、「仮名手本忠臣蔵」より「足利館裏門の場」を上演。写っているのは小1~小3の子ども達!

―子どもだけでなく、大人でもきっと得難い経験になりますね。

はい、昨年から六甲丹生かぶきも大人まで募集の門戸を広げました。捕り手というセリフもない役なんですけど、この上谷上の農村歌舞伎舞台保存会の中西さんご夫妻や、箕谷のシェアハウスにお住まいだったエチオピアの方とかも出てくださって。

みなさん、どうして刀が出てくるとこんなに張り切るんでしょうっていうくらい(笑)、目をキラキラさせてね。楽しんで出演いただきましたよ。

―上演の場として受け継がれてきた農村歌舞伎舞台が使えていることも貴重な経験ですね。

ホールでの公演も経験してきましたけど、やっぱり農村歌舞伎舞台はいいですね。準備をしている段階ではまだまだ舞台は眠った状態で、舞台を組んでいくにつれてだんだん目が覚めて、起きてくるような印象があります。スイッチひとつで幕が上がる、じゃないんですね。

―たしかに農村歌舞伎舞台って生き物めいた存在感がありますね。神社の境内にあることも含めて。

本当にそうなんですよ。舞台もその周りにいる神さまも含めて、眠っていたり目を覚ましたりって感覚があります。以前は山田町にある4つの農村歌舞伎舞台を1年毎に順に巡っていましたから、今年は上谷上に帰ってきた!とかいった感覚もありました。

この日の取材は、上谷上農村歌舞伎舞台にて。

―同じ農村歌舞伎舞台でもそれぞれに個性があると。

それぞれの舞台に備わった機構をもっと活用していけたらよかったのですが、保存会の方々ともお互いに遠慮があって、私たちとしても親しい関係をつくれてなかったんです。それがこの1、2年で上谷上や下谷上の保存会の方とも顔の見える関係になってきて、一緒に舞台の備品を調べてリスト化するようなことも始めました。

―こういう背景画が残ってるのならこの演目がやれそうとか、そんな話もできますね。

そうです。といっても、農村歌舞伎は地芝居、素人の舞台ですから、そこまで厳密にルール通りでなくてもいいと思うんです。ただし、歌舞伎として外してはいけない部分も間違いなくあるので、そのあたりはご指導いただいてる先生に確認しながら進めたいですね。

―実際の大歌舞伎につながる先生にご指導いただいている。

はい。年に何回か来てくださってるのと、セリフのお手本を録音していただいて、それをマネするところからお稽古を始めています。

昨年の「北区農村歌舞伎上演会」のプログラム。

―実際に六甲丹生かぶきに参加するにはどうすればいいですか。

月に2回ずつ、北区と中央区でお稽古をしていますので、どちらかにお越しください。夏休みには親子教室も開催しています。

―どのような演目になるでしょう。

今、練習しているのは「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)」の「車引(くるまびき)」と、「白浪五人男(しらなみごにんおとこ)」です。特に「白浪五人男」は、七五調の長台詞や見得を切る場面など、歌舞伎の要素が全部入っています。

稽古中の「白浪五人男」。番傘を持った5人の主人公が勢揃いする場面は、それだけでも絵になる演目。

ただ、「白浪五人男」は盗賊5人の話で、長年、指導いただいていた市川箱登羅(はことら)先生は、それを子どもたちにやらせるのはどうかということで、登場人物を弁慶、牛若丸、桃太郎、金太郎、徐福というヒーローに変えた、子ども向けの五人男「子宝童謡夢物語」を書き下ろしてくださって、そのお話には六條八幡神社や鈴蘭台など、北区の地名がたくさん出てくるんです。箱登羅先生のこの台本が本当によくできているので、これを受け継いでいくことも私たちの役目だと思っています。

―今のメンバーはかなり減ってしまって、常に参加しているのはリモート参加も含めて8人ほど。

はい。仲間が増えていけば、お祭りに出たり、敬老の会で披露したり、いろんな交流の可能性も増えていくはず。そこを夢見てがんばっていきたいですね。

 

六甲丹生かぶき
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